mononobelab’s diary

創作や日常生活で出てくる科学用語について解説します.リクエストが有ればTwitterどうぞ.@yoiko_mononobe

エーテル(物理学)

エーテルという言葉はどこかで聞いたことがあるでしょうか.

 エーテルと聞くとどこかノスタルジックな感じがしますよね.私だけでしょうか.このエーテルについての議論はあの特殊相対性理論のきっかけともなりました.今回はそんなエーテルについて少し解説をさせていただきます.(つまりエチルエーテルの話ではありませんよ.)

 

エーテルと波と光

 世の中には波がたくさんあります.例えば海に行くと波にゆられている船を見ることができますし,声を出すと耳の鼓膜が震えて音を認識することができます.このように波はなにかしらの"モノ"を介して伝わる事がわかります.

 では同じように波である光も"モノ"を伝わって来ると考えられます.ここで太陽の光を考えてみましょう.太陽は宇宙空間にあり,太陽光が伝わるためには宇宙空間にもエーテルという物質が満ちていてそれが光を伝えていると考えたのです.(ただエーテルという考え方は光が電磁波であるという考えよりも昔に存在していたもので,デカルトは惑星の回転に対してエーテルの渦運動によって接触的に考えたりしていました.)

 しかしエーテルの存在はマイケルソン・モーリーの実験を皮切りに存在が否定されてしまいます.

 もう少し詳しく

 マイケルソン・モーリーの実験とはどのような実験でしょうか.この実験は地球が静止したエーテルに対してどのように運動しているかを調べる実験です.ここで数式を出さないで説明するように努力してみます.

 まず宇宙空間における光速を扱うとき,エーテルに対して運動している観測者が,静止している観測者とは異なる光速を測定すると考えられます.例えば電車に乗っているとき進行方向にボールを投げると電車内の観測者と,電車の外で止まっている観測者とでは速度が異なりますよね.

 しかし地球の運動が光速に及ぼす影響は小さいためエーテルの存在を示すためには精度の高い実験をする必要があります.そこで用いられたものがマイケルソンの干渉計です.この干渉計は,光が到達するまでに必要な所要時間の差が干渉縞となって現れ,これによって非常に高い精度の測定を可能にします.近年においては重力波がこのような干渉計によって発見されました.実験装置等は下記の動画を参照してください.

 さて,この実験はどのような結果となったかというと,この時間の差は観測されませんでした.すなわち,光の速度は変わりませんでした.つまりエーテルの存在は否定されたのです.もちろんこの結果は色々と修正を試みる人たちが頑張りましたが,結局この事実が覆ることはありませんでした.そしてローレンツによってエーテルの有無にかかわらず議論が成立することを示し,エーテルは姿を消したのです.

 

 余談ですが,エーテル関連の実験にはマイケルソン・モーリーの実験のほかにトラウント・ノーブルの実験がありますが,こちらは日本語の記事が見つかりませんでした.英語ではTrouton–Noble experimentと書きます.私の読み方が間違っているのでしょうか?ちなみにこの実験は吊るされたコンデンサーがエーテルによって生じるねじれの力を検出するもので,当然失敗に終わりました.

en.wikipedia.org

あとこれはマイケルソン・モーリーの実験のわかりやすい動画です.

www.youtube.com